自分だけの拠り所―西加奈子「サラバ!」を読んで
またもや間を空けてしまいました。題があまりにも長くなってしまうのでカットしましたが、「休職して分かったこと」という連続ものの一環として読んでいただければと思います。
僕はオードリーの大ファンで、毎週オールナイトニッポンを聞いています。春日が新年早々、熱愛を報じられた若林をイジりまくる今年一回目の放送などは垂涎ものです。
その若林の天才的なコラム集、「社会人大学人見知り学部卒業見込み」という本があります。これはもうタレント本の範疇を超えて「文学」として認められる名作です。
彼がその中で感銘を受けたと書いている、西加奈子さんの直木賞受賞作「サラバ!」が文庫化されたので読んでみました。
表現・テーマ・構成・モチーフ等、どれをとっても非の打ちどころがない傑作で、1000ページ以上にわたる本ですが一気に読んでしまいました。
幼少のころから奇行を繰り返す姉に対し、主人公である弟は人間関係をうまくやりくりし、常に「いいポジション」で生活を送っていました。
しかし、そんなものは時間が経てば失われてしまいます。学校も、仕事も、容姿も、運動能力も、それらは一時の肩書きであって永遠のものではないからです。
それらを失いどんどん惨めになっていく弟とは対照的に、大人になった姉は素晴らしい結婚相手とも出会い、心身ともに安定した生活を手に入れます。
環境とコンプレックスに縛られ続ける弟と、拠り所をみつけた姉。ポジションは替わりながらも、常にこの二項が対比された形で物語は進んでいきます。
「三つ子の魂百まで」という諺があるように、人間は簡単には替わりません。その不変性があるからこそ、安心も問題も生まれていくのです。
自分の拠り所は何か?
僕はそんなものを次々に生まれていく軽薄な「カミ」に求める気にはなれませんが、かといってそれを見つけられないまま生きてきたのは間違いありません。
でも、分かりかけてきたこと・気づいたこともあります。
たぶん、一昨年同棲を始めて結婚してからは、「家族」なのだろうと思います。
別に今更ケンカをしたりはしないし、親には感謝しているけれど、自分が生まれ育った家にはそんな感情はありません。どちらかというとこの面に関しては弟の方に共感してしまいます。
独り身のころ、ムダに飲みに行きまくったり、いくらでも仕事をしていられたのは、友達と生徒に支えられつつも、本当の意味で大切にすべきものを何も持っていなかったからだと思います。
そんな状態で急に同棲し始めたものだから、ただでさえ休みがないのに家を空けてばかりのダメ旦那をしていたことには反省しています。あの頃は「家族」ってどういうものなのかが全然わかっていなかった。それと同様に、「仕事」の意味もはき違えていたように思います。
「本当に大切なもの」が一つあればいい。後のことは何とかなる。
そんな風に思えたことは、休職して得たケガの功名だと思います。
他にも大切なものは沢山あります。生徒が大切だし、学問を愛しているし、バスケと音楽が大好きです。これらをダメにしてしまったら、きっと家族も大切にできないと思います。
だから後はバランスと取捨選択を学ばなくてはなりませんね。少なくとも、がむしゃらになればいいような時期はとっくに終わったのだと思います。本当ならこんなことは30過ぎる前にとっくに学んでいなくてはならないことなのですが。いま思うと、若いころに忠告してくれた人は多くいた気はする。
とはいえ、それなりに頑張ってきたからこの期間にいいこともたくさんありました。
クラスの生徒が千羽鶴を折ってくれたり、保護者が手紙をくれたり、卒業生が会いに来てくれたり、クラスの生徒が家を訪ねてきたり、教え子が結婚式に呼んでくれたり。
そういった「本当に大切なもの」を守れるような生き方を身につけなくてはならないようです。
あの人見知りで偏屈で、南海キャンディーズの山ちゃんと「たりないふたり」なんてユニット名を冠していたほどの若林にも彼女ができました。
それに負けないくらい偏屈な僕の心も、素晴らしい奥さんやかわいい生徒たちに大分溶かされていったような気がします。
根拠はないけど、できる気がする。
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